迷走するドル円相場...その背後にある構造的要因
2026年8月4日2026年8月1日のニューヨーク市場で、日米欧の通貨当局が足並みをそろえて円買いに動き、円は一時157円台前半まで急伸しました。
日本が円安是正のために市場介入に踏み切るのは、今回が初めてではありません。2022年、2024年に続くもので、2024年4月から7月だけでも投じられた額は15兆円を超えています。
これほどの規模で人の手による介入を繰り返さなければ止まらない円安とは、いったい何が起きているのか。これから見ていきます。 為替は国力を映すのか、日米の政策の綾を映すのか、それとも構造そのものが変わってしまったのか。金利差が縮んでも円安が止まらない現実、そして海外で稼いだ利益が国内に戻らないという指摘は、立場の異なる参加者それぞれにとって、簡単には片付かない問いとして残ったように思います。
介入は速度を抑えられても、水準を決めるものではないという言葉もありました。円の実需はどこに向かい、何が本当にその流れを変えるのか。その先にある問いは、今夜この場でも答えの出ないまま開かれています。
この討論は、実在の人物ではなく、AIが生成したペルソナによるものです。多様な立場をなるべく忠実に再現できるようリサーチに基づいて設計していますが、現実の意見や多様性を完全に反映するものではありません。
円安なのに輸出が儲からない構造
司会
円安が進むと輸出企業は儲かるはずというイメージがありますが、実際の現場ではそう単純ではないという声もあります。山内さん、自動車という代表的な輸出産業の立場から見て、なぜ円安がそのまま利益の押し上げにつながらなくなっていると感じますか?
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
業界大手だと海外生産比率はおおむね3割から4割まで来ていて、部品や半導体、バッテリー用レアメタルなどの多くはドル建て調達です。円安になれば海外売上の円換算は膨らみますが、その分輸入コストも押し上げられる。しかも国内は人手不足で増産が効かないから、需要があっても円安メリットをフルに取り込めません。決算上の増益と現場の採算感覚がズレているのはそこで、単純な『円安イコール輸出企業万々歳』はもう成り立たない構造になっています。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
その調達構造こそ、経常黒字を見て円買いを期待するのが的外れだと我々が考える理由なんです。第一次所得収支は過去最高でも、御社のように海外で稼いだ利益を現地で再投資して国内に戻さない。実需の円買いが起きないから、マクロの数字だけ見て円高を張るのは危険だと市場では常に警戒されています。
幡野 美和子 食品商社 原材料調達本部 執行役員
山内さんの、輸出でも輸入コストで相殺されてしまうという話はよく分かりますが、うちのような輸入専業から見れば、相殺できる分だけまだマシだとも思うんです。私たちには相殺する輸出売上がないので、コスト上昇がまるまる直撃する。円安のデメリットの重さは業種でかなり差があると日々実感しています。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
業種間の非対称性はその通りで、実は自動車業界の中でも同じ話があります。完成車メーカーは相殺のクッションがあるように見えて、実際は原材料高や部品調達コスト、EV開発競争、国内の人手不足まで重なって、円安のプラスを丸ごと吸収されてしまう。今年の調査でも円安をマイナスと答えた大企業が4割を超えていて、これは中小より高い数字です。相殺論も万能ではありません。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
輸出企業ですら相殺しきれないという話を聞くと、うちのようにクラウドを使うIT側はもっと逃げ場がないなと思います。契約形態までは詳しくないですが、円建てで払えるサービスがあるとはいえ、結局円安分はどこかで価格に転嫁されている感覚がある。輸出のように海外売上で相殺できるわけでもないので、コスト増がじわじわ効いてきて、会社の業績が悪くなれば給料にも跳ね返ってくる。投資では円安の恩恵を受けつつ本業では苦しむという、ねじれた感じがずっとあります。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
クラウドの支払いまで円安の重荷になっているという話は興味深いですね。私たちが8月の介入判断で懸念していたのはまさにこの手の副作用が広がる無秩序な市場の状態です。金利差だけが原因ではなく、円の需給構造やデジタル収支の赤字も絡み合って、輸出企業でさえメリットを取り込めなくなっている。だからこそ介入は対症療法に過ぎず、日銀の金融政策の方向性を含めた根本的な対応が必要だと考えています。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
金融政策の方向性については立場上コメントを控えますが、8月1日の介入が投機の勢いを削いだという実感は現場に強くあります。山内さんの海外生産比率の話は構造変化として理解していますが、それは介入の是非とは別の問題で、対症療法だからやる意味がないという話にはならないと思います。無秩序な変動を止める機能は確かにあったはずです。
照井 誠 金属部品加工業の二代目社長
介入があった数日は材料の仕入れ値が少し楽になった実感はありましたが、すぐまた円安に戻ってしまい、結局値決めのタイミングには間に合いません。山内さんの話にあった通り輸出大手でも増益が全部現場に効いているわけではないのは分かりますが、それでも決算では過去最高益が出ている。うちのような下請けは為替差益なんて発生しようがないので、その利益の何割かでも仕入れ価格に反映してもらえたらどれだけ助かるか、と思ってしまいます。
横溝 千鶴 家計を切り盛りするパート勤務の主婦
下請けさんの立場も業種によって違うのかもしれませんが、レジ打ちをしている側から見ても、大手さんの過去最高益というニュースはよく目にします。それなのに私の時給には全然反映されないし、店頭の値段はどんどん上がる一方。儲かっているところは確かにあるはずなのに、その恩恵がどこに消えているのか、生活している身としては本当に不思議でなりません。
グエン・ティ・フォン ベトナム国籍の技能実習生出身労働者
時給に反映されない話、私も同じです。工場のリーダーが休憩中に『円安で輸出好調、今年のボーナス期待できる』と話しているのを聞いて、複雑な気持ちになりました。私たち派遣は今春時給20円しか上がっていなくて、物価上昇を考えたら実質マイナスです。同じラインで同じように働いているのに、会社の調子がいい時だけ蚊帳の外にいる感じがします。あと照井さんの、介入があっても値決めのタイミングに間に合わないという話は、送金のタイミングにすごく似ていると思いました。私も為替レートを毎日チェックして送金日を狙っていますが、結局すぐ戻ってしまい焼け石に水なんです。
司会
山内さん、過去最高益と現場の実感のズレという話が出ましたが、円安のプラス効果が海外現地での再投資や部品調達コストの相殺で吸収されてしまう構造は、10年前の円安局面と比べても本質的に変わったと感じますか?それとも単に海外生産比率が上がった分だけの違いでしょうか?
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
10年前との違いは、生産比率の数字だけの話ではありません。当時はまだ国内工場で残業や休出をかければ増産が効いたんです。今は人が集まらず、需要があっても物理的にラインが回せない。だから円安でも輸出台数そのものが伸びません。しかも先ほどキャサリンさんが言っていたクラウド代の話も他人事ではなく、車もソフトウェア化が進んで開発ツールやクラウド利用料がドル建てで乗ってきています。部品だけでなく開発コストまでドル建て化しているのが、質的に違う局面だと感じています。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
開発コストのドル建て化は象徴的な話です。IT関係の知人もクラウド利用料が円安でじわじわ効いてくるとぼやいていましたが、これは実は輸出企業の採算構造にも同じことが起きている。部品や資源だけでなく、ソフトウェア開発や技術投資までドル建てで乗ってくるので、円安の恩恵と輸入インフレが同じ企業の中でぶつかり合って相殺される。10年前の円安局面と違うのはそこで、これはもう金利差の問題ではなく、日本企業が構造的に外貨支払いを増やさざるを得ない体質になってきている証拠だと見ています。
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
電子部品業界でも全く同じ構図です。半導体製造装置や検査装置などの設備投資はドル建てが多く、技術系のソフトウェアライセンスもドル契約になるケースが増えています。円安で現地法人の利益が膨らんでも、こちらの設備更新コストで結構持っていかれる。それでも連結決算では円換算メリットがどうしても目立って見えてしまい、株主からは『増益おめでとう』と言われますが、現場感覚とはズレているというのは山内さんの話と同じです。経営としてこの数字をどう説明するか、正直悩ましいところです。
司会
海外現地で得た利益がそのまま日本に還流せず現地再投資に回るなら、企業がどれだけ儲けても円を買う実需にはならないはずです。アンドリューさん、投資家の立場から見て、この『利益は出るが円買いにはつながらない』構造は今後さらに強まっていくとお考えですか?
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
強まると見ています。配当やロイヤルティで一部は戻る建付けはあっても、企業がそれをどんどん海外での再投資に回す流れは変わりません。我々からすれば経常黒字を見て円買いを張るのはむしろ危険で、シグナルとしては警戒材料です。ただ皮肉なのは、財政規律が緩んで信認が揺らいだ時こそ、案外円が買われる展開もあり得るという点。照井さんが言っていた『介入は数日しかもたない』というのはまさにその通りで、我々にすればあれは押し目を作ってくれる程度の話でしかありません。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
経常黒字が実需の円買いにならないというのは個人の投資判断でもまさに実感で、だったら自分の資産も同じ理屈で動かすのが自然だと思います。会社が海外で稼いでも国内に戻さないなら、個人も円で貯金しているだけでは損している感覚になる。先ほど山内さんが言っていた、昔は残業で増産が効いたけど今は人が集まらないという話も、結局『稼ぐ力』の地盤沈下そのものですよね。だったら円で持つよりドル化しておく方が理屈が通るので、生活防衛としてずっとそうしています。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
個人が生活防衛でドルに寄せる判断が合理的なのは分かりますが、それが大勢で同じ方向に動くと、まさに私たちが警戒する『無秩序な市場』の芽になり得るんです。円は構造的に買われないという見方が広がるほど自己実現的に売りが進み、資産を守るつもりの行動が結果的に円安を深める皮肉な循環になりかねません。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
自己実現的に円安を深めると言われると耳が痛いですが、じゃあ円で持っていろと言われても、名目の給料は多少上がっても物価上昇に追いつかない実感がずっとあって、円だけで資産を組む安心感がないんです。個人がドルに逃げる動機自体が稼ぐ力の地盤沈下から来ているなら、行動だけ止めても構造は残るのではないでしょうか。原子さんが言っていたクラウド代の話も同じで、企業も個人も同じ理由でドル建てに寄っているだけで、それを『集合行動が悪い』と言われても、代わりに何をすればいいのか分かりません。
御手洗 郁美 来年の家族旅行を計画している会社員
分かる気がします。私もNISAで外国株のインデックスを積み立てているので、円だけで持つ怖さは実感としてあります。でもみんな同じ理屈で一斉にドルに逃げたら、それこそ円がもっと売られて、結局輸入物価が上がって私のような生活者に返ってくる気がして。ハワイ旅行の費用が膨らんだのも、結局そういう円安の循環の先っぽを掴まされている感覚なんです。資産防衛のための行動なのに、自分の首を絞めている感じがどこか怖いです。
司会
湊さん、東南アジアの現地法人で得た利益を設備更新や再投資に回す傾向が今後も続くなら、御社の海外事業としては連結決算上どれだけ増益しても、それが実際の円買い需要にはつながらないという理解でよろしいですか?
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
全部が現地再投資に回っているわけではなく、駐在員の給与や手当は円ベースで組んでいますし、日本の設備メーカーや部品サプライヤーへの支払いも当然あるので、そこは細いなりに円需要として残っています。ただアンドリューさんの言う通り、利益の分厚い部分は設備更新やライン増強でそのまま現地に再投資してしまうので、儲かった額に比例して円買いが増えるわけではありません。増益額と実際の円転額の差がどんどん開いている感覚は、経営していて正直あります。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
駐在員給与とサプライヤー払いの円需要は、規模で言えば増益額の何割にもならない小さい話です。市場が決算のヘッドラインだけ見て『増益イコール円買い材料』と単純化するのは危険で、我々はむしろその内訳、つまり現地再投資と円転の比率を見て逆に売りを継続する判断材料にすることが多い。個人が資産をドルに寄せる動きも同じ構造の裏返しで、稼ぐ力が国内に戻らない実感がある限り、この非対称は簡単には解消しないと見ています。
幡野 美和子 食品商社 原材料調達本部 執行役員
湊さんの駐在員給与とサプライヤー払いの話、うちの立場から言うとそこがまさに肝です。うちは輸入企業なので為替予約で先にドルを確保する動きが常時走っていますが、それも輸入量や資源価格、予約のタイミングでかなり増減します。市場が円転比率を見て売りを継続していると言っても、こちらの調達側のドル需要はどう見えているんでしょうか。増益の裏に留保されているお金の動きだけでなく、輸入企業がドルを買う動きも積もり積もって円売り材料になっているはずなのに、そちらはあまり話に出てこないなと思いました。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
輸入企業の為替予約の話は、我々が市場をウォッチする際にもかなり重視している要素です。企業の実需フローは輸出入の予約だけでなく、駐在員給与の円転や海外子会社の再投資比率まで含めて全体像を見ています。輸出企業の増益額と実際の円転額のギャップが開いているのと同時に、資源や食料を輸入する側は納期に合わせて恒常的にドルを買い続けなければならない。貿易収支は2026年6月は4000億円強の赤字でしたが、4月は黒字だったので月によって振れがあり、単純に赤字継続とは言えない状況です。ただこうした需給の積み重ねが、無秩序な変動の背景要因の一つになっているという見方は市場分析の現場でも共有されています。
照井 誠 金属部品加工業の二代目社長
幡野さんの輸入企業のドル買いの話、規模は全然違いますがうちのような零細もまさに同じことをやっています。ステンレスの地金や刃物のチップは毎月ドルで仕入れの支払いが発生する。うち一社なら小さいですが、全国の下請け・中小がみんな同じように輸入決済を抱えているとしたら、それも積もれば結構な円売り圧力になっているはずです。大手の増益が円転されないという話ばかり注目されますが、我々のような下請けが仕方なく払い続けているドルも、この円安の一因になっているんじゃないかと、なんだか複雑な気持ちになります。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
下請けの輸入決済が積もると円売り圧力になるという話は、完成車の裏側でも同じです。系列サプライヤーが何百社と半導体や樹脂原料をドル建てで買っていて、うち一社の調達額より裾野全体の合計の方がよほど大きい。連結決算の円換算メリットだけ見ていても、この裾野のドル需要は数字に出てこないので見えづらいんです。あと土屋さんの、円で持っていても物価に追いつかないという感覚、あれは経営側にも刺さる話で、賃上げの原資を為替差益に頼る構造そのものが不安定なんですよね。
司会
山内さん、御社はすでに海外生産比率が高く、国内工場は人手不足でライン増強もできないという話がありました。そもそも円安で日本から安く輸出して稼ぐというビジネスモデル自体が、御社にとってはもう機能していないと考えるべきでしょうか?
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
機能しなくなったというより、前提が完全に組み替わったというのが実感に近いですね。海外生産比率36%という数字だけ見ると4割弱かと思われるかもしれませんが、残り6割の国内生産分すら人手不足でフル稼働できていません。つまり円安メリットを取り込む余地自体が物理的に減っている。湊さんが言っていた駐在員給与やサプライヤー払いの円需要が残るという話はうちも全く同じで、そこは救いなんですが、開発コストのドル建て化まで進むと、輸出で安く売って稼ぐという発想自体、もうアップデートしないと立ち行かないというのが経営判断としての実感です。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
36%という数字は、経営判断というより国内の供給制約が先にあって、そこに合わせて生産地を最適化した結果という見方に近いんじゃないでしょうか。人手不足で国内ラインが増強できないなら、円安が来ても輸出を積み増すという打ち手自体が取りにくくなっています。湊さんが言っていた駐在員給与やサプライヤー払いの円需要が残るという話は救いですが、それは需要の話であって、稼ぐ力の再生とはまた別の問題だと思うんです。ここは金利差や介入だけで動かせる領域ではなく、供給サイドの制約がどこまで効いているか、もう少しデータで見てみたいところです。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
供給制約の話が産業構造の問題として重要なのは分かりますが、それを金融政策と切り離して語るのは違うと思うんです。日銀が緩和を続ける限り、国内投資より海外での運用や再投資の方が合理的な選択であり続ける。人手不足も、設備投資が国内に向かわないことと無関係ではないはずです。介入で為替水準だけ動かしても根本は変わらないというのはその通りですが、だからこそ日本のマクロ運営、特に金融政策の正常化がもっと進むべきだというのが私たちの一貫した見方です。
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
金融政策が正常化すれば海外投資が減るかというと、うちの感覚だと違うんです。東南アジアに再投資しているのは金利差狙いではなく、単純にあちらの市場がまだ伸びているから。日銀が利上げしても、成長している場所に工場を置くという経営判断はそう簡単には変わらない気がします。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
成長機会を追う判断だというのは理解できますが、それでも資金調達コストという意味では金利差は無関係ではないはずです。同じ成長機会に投資するにしても、ドルで調達する方が安く済む環境なら、その判断はより後押しされる。つまり成長機会と金利差は対立する説明ではなく、並行して同じ方向に効いている要因なんじゃないでしょうか。金融政策の正常化が全てを変えるとまでは言いませんが、資金の相対的な魅力度に影響しないという見方には、正直ちょっと同意できません。
司会
湊さん、電子部品業界全体で見て、海外生産比率が上がったことで円安になっても輸出数量を増やすという打ち手自体がもう取りにくくなっている、つまり円安で安く売って稼ぐという仕組みが御社の業界でも構造的に機能しなくなっていると考えていいでしょうか?
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
電子部品業界も自動車と同じで、輸出数量を積み増して稼ぐという打ち手はもう主戦力ではありません。ただ『機能しなくなった』と言い切るのもちょっと違って、新規顧客への値段勝負では一時的に効くんです。安く見せられれば商談のテーブルには乗る。でもそれで取れた顧客も、結局は品質と安定供給と技術サポートで居続けてもらうしかありません。円安頼みの事業計画は、うちの部品原価もドル建て調達がかなり入っているので、増益効果は輸入コストと綱引きしているのが実態です。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
値段勝負で商談テーブルに乗るのはあくまで入口の話で、そこから品質と技術サポートで居続けてもらう構図に変わっても、円安メリット自体はゼロになるわけではなく、海外売上の円換算益や価格競争力の押し上げとして薄く残り続けます。ただ問題は、その残る分がもう『輸出を増やして稼ぐ』というマクロの物語を支えるほどの規模ではないということです。市場がヘッドラインの増益だけ見て円安トレードを積むのは、この薄まった構造を見誤っている可能性があります。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
薄く残るメリットという表現、完成車でもまさにそれで、1円の円安で数百億円の増益と言うと大きく聞こえますが、そのかなりの部分がヘッジコストの増加と部材のドル建て化でほぼ相殺されている感覚です。特にここ数年、半導体やバッテリー材料の調達がドル建てで増えて、円安が来るたびに原価も一緒に上がる。市場が決算のヘッドラインだけ見て円安トレードを積むのは、この綱引きの中身まで見ていないなと感じますね。
金利差で説明できなくなった円安
司会
金利差が縮んでも円安に歯止めがかかりません。「金利が上がれば通貨が強くなる」という従来の図式は、もう為替の説明原理として機能していないのでしょうか。原子さんはこの変化をどう捉えていますか。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
教科書通りの図式はもう説明力を失っています。2025年前半はFRBの利上げ停止観測でいったん円高に振れる局面もありました。ところがその後、金利差が縮んだままなのに円安がむしろ加速した。これは金利差だけでは説明がつきません。市場が見ているのは貿易赤字の定着や製造業の海外シフト、つまり日本の稼ぐ力そのものへの疑念です。金利の話を通り越して、国そのものが値踏みされ始めている感覚があります。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
金利差の話は実感としてもズレを感じます。うちの会社が使っているAWSやAzureは日本円払いにできますが、料金自体はドルベースで計算されていて、毎月の為替レートで円に換算される仕組みです。円払いでも結局ドル高の影響がそのまま乗ってくる。こういう見えにくいドル需要が積み重なって、金利差だけでは測れない円売りを生んでいるのではないでしょうか。稼ぐ力の話に近いですが、稼ぐ前からドルが出ていく構造がもう埋め込まれている感覚です。
御手洗 郁美 来年の家族旅行を計画している会社員
クラウドの話、旅行の予約サイトでもまさに同じ感覚があります。ホテル予約は円表示でも裏側は現地のドルやユーロで計算されていて、予約日と決済日でレートが変わって金額がズレることがあるんです。円で払っているつもりでも、結局ドルの波をそのまま受けている。金利差がどうこう関係なく、生活のあちこちにドル建てが埋め込まれているんだなと実感します。
幡野 美和子 食品商社 原材料調達本部 執行役員
個人のドル決済が生活のあちこちに埋め込まれているという話、よく分かります。うちの現場では小麦や大豆を輸入する際、半年先・1年先の受渡日を決めてその日のレートで為替予約を組みますが、結局その受渡日にはドルを用意しなければなりません。個人の消費も企業の調達契約も、将来ドルが必要になるという約束を積み上げているだけで、金利差がどうであれドル需要は先々にずっと埋め込まれている。だから金利を下げても円買いが戻る理由がどこにも見当たらないんです。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
為替予約の話は、まさに我々が注視しているファンダメンタルズの一部です。半年先、1年先のドル調達が予約という形で先々まで積み上がっているのは短期の投機とは別の実需の重みで、金利差が縮んだからといってすぐには剥がれません。ただ金利差が全く無関係というわけでもなく、その縮小は円安圧力を弱める方向には働くはずです。それでも実需の積み上がりが金利差の効きを鈍らせている、というのが今の実感に近い。だから介入で急激な変動を抑えつつ、こうした構造的な需給とどう向き合うかが本当の課題だと思っています。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
実需の積み上がりという指摘はその通りだと思います。ただそれだけでなく、日本の経常黒字の中身も見逃せません。第一次所得収支が過去最高の黒字を出しているのに、その利益の多くが国内に戻らず海外で再投資されている。輸入企業のドル調達に加えて、稼いだドルが円に転換されないという構造も、金利差が縮んでも円が買い戻されない一因だと私たちは見ています。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
所得収支の再投資構造は、こちらでも把握している論点です。整理すると、実需の予約需要は半年後・1年後に確実にドルが必要になるという明確な需要であるのに対し、所得収支の再投資は投機とも実需とも違う、企業の海外事業戦略そのものに根を張った話です。金利差や介入は短期的にレートを動かす力があり、実際4月末や8月1日の介入は一時的に円高に振れました。ただ、海外で稼いだ利益を現地でまた投資するという企業行動そのものを変える力は、金利差にも介入にも乏しい。だからこそ我々は変動の速度を抑えることに徹し、構造の話は別の政策領域だと割り切っています。
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
企業行動そのものを変える力が乏しいという整理は、まさにその通りで、うちの東南アジア拠点でも同じ判断をしています。現地で稼いだ利益は現地で再投資、新工場の設備や人材採用に回す。円に転じて日本に戻す理由が経営判断として存在しないんです。金利差が縮まろうが介入があろうが、成長市場で稼いだカネは成長市場で使うのが合理的で、そこは為替の話とは別次元の経営の論理です。
トランプ関税と為替政策のねじれ
司会
次のテーマに移ります。アメリカの通商政策が変化すると、それは為替の動き方そのものにも影響を及ぼすのでしょうか。貿易のルールが変われば、お金の流れ方まで変わってしまうのか。米国側の視点からどうご覧になっていますか。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
実務上、これは非常に悩ましい問題です。関税は発表されるまでの交渉過程そのものが市場を動かします。実際の税率がいくらになるかより、「次に何を言い出すか分からない」という不確実性そのものが、投機筋にとってボラティリティを取りに行く格好の材料になっている。ファンダメンタルズと関係のないところで為替が振れ、それが積み重なるとオーバーシュートにつながりかねません。通商政策と為替を別々の箱で考えるのは、もう現実的ではないと感じています。
照井 誠 金属部品加工業の二代目社長
次に何を言い出すか分からない、という話は現場感覚としてよく分かります。うちで困るのは為替そのものより、関税のニュースが出るたびにステンレスやアルミの相場がざわつくことです。仕入れ先から「来月の見積もりは待ってくれ」と言われる回数が明らかに増えました。取引先には納期も価格も約束しなければいけないのに、こちらの原価が読めないのでは商売になりません。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
仕入れ値がざわつくという話、こちらのデスクでも似たようなことが起きています。関税の発表そのものより、トランプ政権が次に何をツイートするかで、ドル円のポジションを一旦フラットに戻す動きが増えました。金利差というファンダメンタルズの上に予測不能な政治リスクが乗ると、キャリートレードのボラティリティコストが上がる。これが続くと、日銀にとっても『いつ動くべきか』の判断がさらに難しくなります。通商政策のノイズが、結果的に介入のタイミングまで曇らせている気がします。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
金利差の話は分かりますが、我々の現場でもっと痛いのは調達契約の予見可能性です。半導体やレアメタルは半年先、一年先までドル建てで契約が積み上がっている。その間に関税の話が出たり引っ込んだりされると、ヘッジのタイミングも数量も全部組み直しになります。関税率が確定してくれれば対応のしようがあるのに、交渉過程そのものが揺れるから、財務としては打ち手が定まらない。金利差より、こちらの方が厄介だと実感しています。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
調達契約とヘッジのタイミングが狂うという話は、まさに市場が金利差より構造要因を見透かしている証拠だと思います。日銀は6月に政策金利を1.00%まで上げ、7月末も据え置きながら引き締め方向のスタンスは崩していません。それでも円が本質的に強くならないのは、関税の不確実性が乗っかって、実需筋が為替リスクをヘッジしようにも数量も時期も定まらないからでしょう。政策の方向性は正しくても、外部からのノイズで市場が読み切れない状況が続けば、介入のタイミングだって当局は判断しづらくなる。通商政策の不確実性そのものが構造的な弱さを増幅させている例だと見ています。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
金利差が縮んでも円が強くならないという話、トレーダーとして本当に頷けます。自分も『介入後は押し目買い』というセオリーでやってきましたが、関税のニュースで急に振れる動きが増えてから、そのタイミングが読めなくなっている感覚があります。金利差という分かりやすい軸だけでポジションを組んでいると、政治要因で梯子を外される怖さが増した気がします。
幡野 美和子 食品商社 原材料調達本部 執行役員
梯子を外される話、うちの為替予約の現場でも本当に同じことが起きてます。半年後の穀物受け取り分をいつ予約するか、金利差だけ見て決めてたら痛い目に遭う。関税の話がポロッと出た瞬間にドル円が跳ねて、予約のタイミングを一日ズラしただけで数千万円単位で損することもある。担当者は毎回「このニュースはもう織り込まれてるのか、まだこれから動くのか」って読み合いさせられてて、正直しんどいです。金利差という教科書通りの軸と、大統領の発言という読めない軸が両方乗ってきてる今、予約のタイミングを決めるのがギャンブルに近くなってる感覚があります。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
予約のタイミングがギャンブルに近いという感覚、当局側からも似た景色が見えています。市場が薄くなる時間帯、特にニューヨークの午後などに関税報道が重なると、振れ幅が普段の比ではなくなる。投機筋はそういう薄い時間帯を見透かして仕掛けてくるので、8月1日にあのタイミングを選んだのも、実はそこを逆に使ったという側面があります。通商政策のノイズと投機の動きが重なると、実需の人たちが一番苦しむ構造になっているのは正直悩ましいところです。
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
薄い時間帯を狙われる話は当局の苦労として分かりますが、経営側からすると介入のタイミングより日銀の緩和姿勢との整合性の方がよほど市場に見透かされている気がします。うちもシンガポール駐在員の給与や現地調達をドルで読まなければいけませんが、関税の思惑で急に振れられると、手当をいくら積むかの判断すら定まらず、結局後手に回る。実需は政治のノイズに一番振り回される立場だと痛感しています。
司会
論点を変えます。トランプ政権は貿易赤字是正のためにドル高是正を求めているとも言われますが、一方で協調介入は円安是正、つまり実質的にドル高是正の方向で動いています。この関税による対日圧力と為替介入の方向性は本来矛盾するのではないでしょうか。米国の対日通商戦略全体の中で、為替介入をどう位置づけているのですか。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
矛盾しているように見えるのは分かりますが、貿易赤字の是正と無秩序な相場変動を止めることは、必ずしも別物ではありません。関税で貿易不均衡を是正しようとする動きは長い目で見ればドル高要因にもなり得ますし、実際8月の介入も円安を止めることでドル高是正、つまり貿易赤字縮小にも資するという分析があるくらいです。ですから財務省としては矛盾した政策を同時にやっているというより、無秩序な変動を止める緊急対応と、構造的な不均衡是正という長期の話を、同じ方向を向きながら別々の時間軸で扱っているという理解です。ホイットフィールドさんが指摘したポジション調整の話も、そうした不確実性が市場に乗っているから起きるのだと思います。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
長期の構造是正と緊急対応が同じ方向、と整理されると、こちらのデスクは逆に困るんです。関税で貿易赤字を是正したいなら本来ドル安志向のはずなのに、実際の介入は円安阻止、つまり円を買ってドル高を抑える方向に効いている。この二つのメッセージがどこまで整合しているのか市場は結局読み切れず、政治的意図の読み合いがそのままボラティリティになる。山内さんが言っていた調達契約の話と同じで、我々もポジションの時間軸を半年先まで読みたいのに、政策の時間軸がバラバラだと結局フラットに戻すしかないんですよ。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
政策の時間軸がバラバラでフラットに戻すという話、実需側も似た苦しさがあります。うちも半導体やレアメタルは先々までドル建てで契約を組んでいる部分がありますが、関税と介入の方向性がどう整合するか読み切れないまま、ヘッジの数量とタイミングを決めなければいけません。理屈で矛盾していないと言われても、現場は結局『どちらに転んでも対応できる幅』を持たせるしかなく、それがヘッジコストを押し上げているんです。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
ヘッジコストが上がっているという話は、金利差の問題というより、もっと構造的なところに根があると思います。海外生産比率が36%超まで上がり、調達も生産もドル建てで先々まで積み上がっている。つまり為替エクスポージャーそのものが昔より膨らんでいる。そこに通商政策の不確実性が乗っかるから、ヘッジの読み合いが余計しんどくなる。介入と政策の整合性の議論も大事ですが、企業側がそもそも為替変動に弱い体質になっていることの裏返しだと見た方がいいのではないでしょうか。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
為替エクスポージャーが構造的に膨らんでいるという話、トレーダー視点でも思うところがあります。実需の予約需要とFXの投機的なドル買いポジションは、方向としては同じ円売りなんです。幡野さんが言っていた穀物の為替予約も、自分たちのような個人の押し目買いも、結局同じ側に積み上がっている。だから8月1日のような介入が入っても、反対方向の需要がどれだけ薄いか分からず、効果がどこまで続くのか正直読みにくい。介入する側もこの需要の厚みまでは把握しきれていないのではないでしょうか。
幡野 美和子 食品商社 原材料調達本部 執行役員
実需のドル買い予約も、うちの穀物調達分がまさにその一部やと思う。半年先の分をコツコツ予約に積んでいく作業を毎月やってるわけやけど、これが個人の押し目買いと同じ方向に乗ってると考えたら、そら介入しても一瞬で押し返されるわなって腑に落ちる。円を買い戻す側が全くいないとは言わへんけど、貿易赤字とか海外投資の分厚さに比べたら見劣りしてる感覚はある。だから何回介入しても効果がすぐしぼむんやないかな。
為替是正と観光立国戦略の両立
司会
円安を追い風に訪日客が増え、旅館業にも活気が戻っていたと思います。今回のような円買い介入で円高方向に振れていくと、その割安感による集客効果は失われていくのでしょうか。金子さん、現場の実感をお聞かせください。
金子 沙也加 温泉旅館の女将兼経営者
157円まで戻ったと聞いた時は、正直ヒヤッとしました。うちは今のところ予約に大きな変化はありませんが、この賑わいが為替一本で成り立っていると思うと怖いんです。しかも円安の恩恵は東京や京都のような大都市に偏っていて、長野の温泉地であるうちはそこまで潤っている実感が薄い。だからこそ、安さで来てもらうのではなく、貸切風呂や職人体験のような、価格ではなく価値で選んでもらえる仕込みを今のうちにやっておかないと、円高になった瞬間に一気にお客様が引くと思っています。
御手洗 郁美 来年の家族旅行を計画している会社員
貸切風呂や職人体験のような、価値で選ばれる仕込みという話、旅行する側としてすごく納得します。私もハワイ旅行の見積もりで似たようなことを考えていて、安さだけで惹かれる場所は円次第で気持ちが冷めますが、そこにしかない体験があれば多少高くても行きたいと思う。逆に言えば、今の訪日客の多さも、割安感がなくなった瞬間に一気に離れる危うさの上に成り立っているということですよね。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
割安感で来てくれる客に頼る構造自体が脆いという指摘は、まさにその通りだと思います。我々が介入でやろうとしているのは157円といった特定の水準を守ることではなく、急激な変動の速度を抑えることなんです。もし何もせず無秩序に振れれば、旅館業も予約計画が立てられなくなる。緩やかな変化に対応する時間を作るのが目的で、観光戦略と矛盾させるつもりはありません。
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
速度を抑えるのが目的というのは理解できますが、経営の現場では結局、水準そのものが事業計画の前提になってしまうんです。157円で組んだ予算が155円になるだけで、営業利益が数億単位で動く。金子さんの旅館業も賑わいが為替一本足打法だという危機感を語っていましたが、あれはうちのシンガポール駐在員の給与コストや現地収益の円換算メリットと全く同じ構造だと感じました。速度が緩やかでも、水準が変われば結局みんな一喜一憂せざるを得ないんです。
グエン・ティ・フォン ベトナム国籍の技能実習生出身労働者
数億単位で利益が動くと聞いて、考えさせられました。私たちの時給はこの春に20円だけ上がりましたが、物価上昇を考えれば実質マイナスです。会社が円安で輸出好調だと喜んでいる話を聞くと、その分がどこに消えているのか気になります。私は給料からベトナムの家族に送金しているので、水準が変わると会社は数億動くのに私たちの生活は20円のままというのは、少し納得がいきません。
司会
金子さん、政府が急変動を抑える介入を続けて円高方向に振れていった場合、貸切風呂や職人体験のような価値づけの仕込みだけで割安感の消失を補いきれるとお考えですか。観光立国戦略として国が目指す方向と、旅館業が今のうちに準備すべきことは噛み合っているでしょうか。
金子 沙也加 温泉旅館の女将兼経営者
貸切風呂や職人体験だけで全部補えるとは、私も思っていません。水準が守られるわけではなく速度を抑えるだけと聞いて、むしろ怖さが増した部分もあります。じわじわでも157円が150円台に戻れば、割安感で来ていた層は確実に減ります。だから今、平日限定で日本人のお得意様向けのプランを維持しているのは、正直インバウンドが引いた時の保険のようなものです。両方の足場を残しておかないと、賑わいが消えた瞬間に何も残りません。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
平日プランとインバウンド向けの二本立てを保険として維持するというやり方は、まさに我々が狙う適応そのものです。介入の目的は157円という水準を守ることではなく、変動の速度を抑えて事業者が計画を立てられる時間を作ること。だから緩やかに水準が動く方が、急変よりむしろ経営判断はしやすいはずです。ただ、円高局面でも構造的に立ち行くかどうかは、正直米国の介入では解決できない、日本自身の政策課題だと思います。
石沢 勝之 配合飼料を用いる肉牛農家
円高局面でも構造的に立ち行くかは日本の政策課題だと言われましたが、わしらの現場じゃもっと厄介な話です。旅館業は円安が戻れば観光客の割安感が消えるという話ですが、わしらは逆に円高に戻っても餌代が下がる保証なんぞない。トウモロコシも大豆も、戦争や不作やらの要因が絡んどるから、為替だけの問題じゃなかとよ。それにグエンさんの時給20円という話、胸に刺さりました。わしらも子牛を買う側と売る側で板挟みになっとって、結局誰も得しとらん構造は似とるかもしれん。
司会
滝上さん、政府として観光立国戦略で訪日客数の目標を掲げている以上、円買い介入によって割安感が薄れ訪日需要が落ち込むリスクは、為替政策の判断材料として重視されているのでしょうか。
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
訪日客数の目標自体は政府として観光戦略で掲げているので、そこは無視できません。ただ介入の判断基準に据えているのは特定業種の需要ではなく、経済全体への無秩序な負荷を防ぐことです。もし訪日需要を直接の目的関数に入れれば、旅館業には有利でも輸入業者や湊さんのような現場には不利な政策判断になりかねない。だから観光への影響は、経済全体の中の一要素として間接的に視野に入るというのが実際のところです。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
経済全体の一要素という整理自体はその通りだと思います。ただ湊さんの、157円が155円になるだけで数億動くという話は、観光業だけの問題ではなく輸出企業も全く同じ立場です。介入で円高に振れれば旅館の割安感は薄れますが、逆に振れなければ我々の投資計画は円安差益前提のまま歪んでいく。結局どちらの業種を立てても、もう一方が振り回される構造そのものが本質で、介入の強弱で解決する話ではないと感じています。
照井 誠 金属部品加工業の二代目社長
どちらの業種を立てても振り回される構造というのは、うちも全く同じです。ただうちの場合、円高に戻ったからといって鋼材やアルミの値段がすぐ下がるわけではありません。世界的な需給や産地の事情もありますから。それに観光需要が落ち込んで国内景気が冷えれば、自動車の国内販売も鈍り、結局うちへの発注量まで減る。円高になっても得しないどころか、二重に痛い目に遭うかもしれないと思っています。
司会
原子さん、政府が観光立国戦略で訪日客数の目標を掲げつつ、介入で円高方向への調整を進めるという二つの方針は、経済全体で見て整合的だとお考えですか。割安感に依存してきたインバウンド需要が失速するリスクをどう評価しますか。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
整合性がないとは思いません。むしろ金子さんが言っていた、水準が守られるわけではなく速度を抑えるだけという理解は正しくて、円安一本足の観光振興自体がそもそも持続可能な戦略ではなかったということです。安いから来る客は高くなれば去る、当たり前の話です。介入で多少円高に振れたところで壊れるような需要構造なら、貸切風呂や職人体験に本気で投資して価値で選ばれる方向に転換するのは、むしろ正しい経営判断だと思います。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
円安一本足が持続的でなかったという点は同意しますが、金子さんが怖がっているほど円高には振れないと見ています。157円が150円台に戻る程度では、金利差もデジタル赤字も全く解消されていません。介入は速度を抑えるだけで、トレンドの方向自体は変わらないというのが我々の見立てです。旅館業が過度に怯えて価値転換を焦る必要はなく、じっくりやればいい話だと思います。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
介入で数円戻った程度ではトレンドは変わらないという見立て、FXをやっている身としては同感です。155円と160円台を往復している間は金利差もデジタル赤字も全然解消されていないので、旅館業が今すぐ怯える必要はないと思います。逆に言うと、観光客の「安いから来る」という行動も、僕らが生活防衛でドル転換しているのと同じで、集合的には円売り需要の一部を支えてしまっている構造なんじゃないかと最近感じています。
討論を終えて〜参加者の所感
滝上 隆一郎 財務省 国際局為替市場課 課長補佐
クラウド代や開発ツールの費用までドル建て化しているという話には、正直こちらの想定より一段深いところまで進んでいるという感覚がありました。介入の役割は投機を牽制することだとずっと思ってきましたが、実需と投機が同じ方向に積み上がり、しかも企業のコスト構造そのものがドルに縛られているとなると、我々が向き合うべき対象はもっと広いのだと痛感します。
それでも、介入という手段自体が無意味になるとは思いません。ただ、速度を抑えることはできても水準の重さまでは救えないという現場の声を聞くと、自分たちがやっていることの限界を、もう一度冷静に見つめ直す必要があると感じています。
それでも、介入という手段自体が無意味になるとは思いません。ただ、速度を抑えることはできても水準の重さまでは救えないという現場の声を聞くと、自分たちがやっていることの限界を、もう一度冷静に見つめ直す必要があると感じています。
山内 直樹 大手自動車メーカー 海外財務戦略部長
円転比率や駐在員給与といった、自動車メーカーの内側の事情だけで考えていましたが、幡野さんの穀物予約の話や照井さんの零細企業の輸入決済の話を聞いて、見方が変わりました。円売りというのは、実は裾野の方がよほど分厚いのではないかと感じたのです。
連結決算の増益額と円転額のギャップばかり気にしていましたが、系列サプライヤー何百社分のドル需要のような、見えないところでの積み重ねの方が、構造としてはむしろ効いているのかもしれません。
また、石沢さんが話していた「円高に戻っても餌代は下がらない」という指摘も印象的でした。うちの鋼材やアルミも同じ構造で、水準さえ戻れば楽になるという単純な話ではないのだと、改めて突きつけられた感覚があります。
連結決算の増益額と円転額のギャップばかり気にしていましたが、系列サプライヤー何百社分のドル需要のような、見えないところでの積み重ねの方が、構造としてはむしろ効いているのかもしれません。
また、石沢さんが話していた「円高に戻っても餌代は下がらない」という指摘も印象的でした。うちの鋼材やアルミも同じ構造で、水準さえ戻れば楽になるという単純な話ではないのだと、改めて突きつけられた感覚があります。
幡野 美和子 食品商社 原材料調達本部 執行役員
うちみたいな輸入企業の為替予約って、こっちの都合だけで動いてるつもりやったんやけど、話を聞いてて腹落ちしたことがある。個人が生活防衛でドルに逃げる動きとか、旅行客が安いから来るっていう行動も、結局は同じ方向に積み上がってるんやなって。
企業の調達も、家計の資産防衛も、旅行の消費行動も、みんな似たような理由でドル側に寄っていって、それが円安の自己実現みたいになってるんやとしたら、これはもう為替介入とか金利差だけの話やない。石沢さんが言うてた、円高に戻っても穀物相場自体の高騰要因は消えへんっていうのも、まさにその通りで、水準が戻ったところで安心できる話やないんよね。
結局みんなが少しずつ同じ方向に押してる構造の中で、私らはドルを確保し続けなあかんし、それがまた円安を支えてしまう。そんなしんどい循環の中におるんやなと、改めて思いました。
企業の調達も、家計の資産防衛も、旅行の消費行動も、みんな似たような理由でドル側に寄っていって、それが円安の自己実現みたいになってるんやとしたら、これはもう為替介入とか金利差だけの話やない。石沢さんが言うてた、円高に戻っても穀物相場自体の高騰要因は消えへんっていうのも、まさにその通りで、水準が戻ったところで安心できる話やないんよね。
結局みんなが少しずつ同じ方向に押してる構造の中で、私らはドルを確保し続けなあかんし、それがまた円安を支えてしまう。そんなしんどい循環の中におるんやなと、改めて思いました。
横溝 千鶴 家計を切り盛りするパート勤務の主婦
グエンさんが「工場のリーダーがボーナスを期待できるって話しているのを聞いて、複雑な気持ちになった」と話していたのを聞いて、レジを打っている私と同じ感覚なんだと驚きました。国籍も立場も違うのに、儲かっている会社の中で自分だけ蚊帳の外にいるような感じは、みんな似たようなところで感じているんですね。
時給が20円しか上がらなかったという話も、うちの時給の上がり方とほとんど同じで、結局しわ寄せがどこに来ているのか分かる気がしました。
会社の増益がどこかで相殺されているという話をいくら聞いても、じゃあ現場で働く私たちの分はどこに行ったのか、そこはやっぱり納得できないままです。
時給が20円しか上がらなかったという話も、うちの時給の上がり方とほとんど同じで、結局しわ寄せがどこに来ているのか分かる気がしました。
会社の増益がどこかで相殺されているという話をいくら聞いても、じゃあ現場で働く私たちの分はどこに行ったのか、そこはやっぱり納得できないままです。
アンドリュー・ホイットフィールド グローバルマクロ系ヘッジファンドのポートフォリオマネージャー
今日は開発コストのドル建て化や、調達側の為替予約といった現場の話を色々聞けたのが収穫でした。経常黒字が円買いにつながらないという自分の見立ては、企業の再投資の話だけでなく、輸入側の恒常的なドル需要という別のフローからも補強された感覚があります。
金利差が縮んでも円が強くならない、日銀が引き締めてもなお強くならないという事実は、我々のデスクでも見過ごせない材料です。正常化だけでこのトレンドが反転するというシナリオは、もう単純には描けないと思っています。
あと介入のタイミング戦術の話も印象的でした。政治的な意図を読み合うより先に、反対方向の需要がどれだけ薄いかを見るほうが実効性を測る近道だという整理には、自分の中でも少し軸が動きましたね。
金利差が縮んでも円が強くならない、日銀が引き締めてもなお強くならないという事実は、我々のデスクでも見過ごせない材料です。正常化だけでこのトレンドが反転するというシナリオは、もう単純には描けないと思っています。
あと介入のタイミング戦術の話も印象的でした。政治的な意図を読み合うより先に、反対方向の需要がどれだけ薄いかを見るほうが実効性を測る近道だという整理には、自分の中でも少し軸が動きましたね。
照井 誠 金属部品加工業の二代目社長
大手が海外で稼いだ金を現地でまた投資するのは、経営として合理的だという話、聞けば聞くほど理屈は分かります。でも、それで下請けの苦境が解決するわけではありません。国内のモノづくりに金が戻る道筋を誰かが作らない限り、この構造はずっと変わらないんじゃないか――そう思うと、むしろ苛立ちが強まりました。
そもそも関税のニュースひとつで材料相場がザワつくことのほうが、金利差や介入といった大きな話より、うちにとっては痛手です。目の前の見積もりが立てられないという現実のほうが、よほど重くのしかかってきます。円高に戻ったところで鋼材の値段がすぐ下がる保証もありませんし、観光需要が冷えて景気全体が沈めば、うちへの発注まで減ってしまう。そういう二重の怖さを、改めて感じました。
そもそも関税のニュースひとつで材料相場がザワつくことのほうが、金利差や介入といった大きな話より、うちにとっては痛手です。目の前の見積もりが立てられないという現実のほうが、よほど重くのしかかってきます。円高に戻ったところで鋼材の値段がすぐ下がる保証もありませんし、観光需要が冷えて景気全体が沈めば、うちへの発注まで減ってしまう。そういう二重の怖さを、改めて感じました。
金子 沙也加 温泉旅館の女将兼経営者
介入は157円という水準を守るためではなく、変化のスピードを緩めるためだと聞いて、自分の中で考えが整理し直されました。円高になれば助かる、円安が続けば怖い、と単純に捉えていたけれど、本当に怖いのは水準そのものではなく、急に変わって対応する時間がないことなんだと気づいたんです。
石沢さんが「円高に戻っても餌代が下がる保証はない」と言っていたのも、うちにとって刺さる話でした。円が戻ったからといって、リネンや燃料の仕入れがすぐに楽になるわけではないんですよね。
結局、為替がどちらに振れても国が助けてくれるわけではなく、貸切風呂や職人体験といった仕込みを自分たちでどれだけ本気でやれるかにかかっている。そう思うと、腹をくくった気持ちになりました。
石沢さんが「円高に戻っても餌代が下がる保証はない」と言っていたのも、うちにとって刺さる話でした。円が戻ったからといって、リネンや燃料の仕入れがすぐに楽になるわけではないんですよね。
結局、為替がどちらに振れても国が助けてくれるわけではなく、貸切風呂や職人体験といった仕込みを自分たちでどれだけ本気でやれるかにかかっている。そう思うと、腹をくくった気持ちになりました。
土屋 亮平 外国株・FX投資を行うシステムエンジニア
自分がドルに資産を寄せている行動が、集合的には円安を後押ししてしまっているという指摘には、正直こたえました。生活防衛のつもりでやっていることが、結局グエンさんのように時給が20円しか上がらない人たちの物価高にもつながっているのだとしたら、単純に自分だけ得しているとは言えない話です。
企業の為替予約や再投資の話を聞いても、みんなが自分の立場で合理的に動いているだけで円安が積み上がっていく構造がよく分かります。これは誰かが悪いという話ではなく、抜け出しにくい構造そのものなんだと感じました。
とはいえ、自分の生活を守るために円だけで資産を持つ勇気はまだ持てず、そこは正直、割り切れないままです。
企業の為替予約や再投資の話を聞いても、みんなが自分の立場で合理的に動いているだけで円安が積み上がっていく構造がよく分かります。これは誰かが悪いという話ではなく、抜け出しにくい構造そのものなんだと感じました。
とはいえ、自分の生活を守るために円だけで資産を持つ勇気はまだ持てず、そこは正直、割り切れないままです。
グエン・ティ・フォン ベトナム国籍の技能実習生出身労働者
石沢さんが牛の餌代の話をしていたのを聞いて、円高になったからといって自動的に楽になるわけではないんだなと気づかされました。私は、円安さえ収まれば送金額も戻るし物価も落ち着くはずと単純に思っていたのですが、農家さんは為替とは関係ない要因でずっと苦しんでいるんですよね。
これは私たちにも当てはまることで、時給が上がらない根っこは為替だけでなく、会社が私たち派遣にお金を回す気があるかどうかという話でもあるんじゃないかと思い始めました。円のレートだけ見て一喜一憂していましたが、結局どこにお金が流れるかという、もっと根っこの部分を見ないといけないんだなと、少し考えが変わりました。
これは私たちにも当てはまることで、時給が上がらない根っこは為替だけでなく、会社が私たち派遣にお金を回す気があるかどうかという話でもあるんじゃないかと思い始めました。円のレートだけ見て一喜一憂していましたが、結局どこにお金が流れるかという、もっと根っこの部分を見ないといけないんだなと、少し考えが変わりました。
湊 和彦 東南アジアに生産拠点を持つ電子部品メーカー役員
駐在員のコスト増ばかり気にしていましたが、うちが東南アジアで稼いだ利益を現地で再投資しているという判断自体が、結局この円安を助長する側に回っているのではないか。そう考えるとちょっと考えさせられました。
個人がドルに資産を逃がすのも、うちが現地に工場を建て増しするのも、根っこは同じで「稼ぐ力が国内に戻る理由がない」という話です。みんなが合理的に動いた結果、円がどんどん買われなくなっていく構図になっている。
だから金利差や介入がどうこうより、うちみたいな会社がどこまで国内に投資を戻せるか、そこを経営としてもっと考えなきゃいけないんだろうなと思います。ただ、成長市場に張るのが経営判断としてはやっぱり正しいわけで、この矛盾、簡単には答えが出ませんね。
個人がドルに資産を逃がすのも、うちが現地に工場を建て増しするのも、根っこは同じで「稼ぐ力が国内に戻る理由がない」という話です。みんなが合理的に動いた結果、円がどんどん買われなくなっていく構図になっている。
だから金利差や介入がどうこうより、うちみたいな会社がどこまで国内に投資を戻せるか、そこを経営としてもっと考えなきゃいけないんだろうなと思います。ただ、成長市場に張るのが経営判断としてはやっぱり正しいわけで、この矛盾、簡単には答えが出ませんね。
キャサリン・モロー 米財務省 国際問題担当次官補
為替予約やドル建て調達がすでに半年、一年先まで積み上がっているという話を聞いて、実需の粘着性をこれまでより重く見る必要があると感じた。金利差が縮んでも円が買い戻されない理由を、日本の構造問題として説明するだけでは不十分だろう。生活のあちこちに埋め込まれたドル需要そのものが自己実現的に円安を支えているという面も、もっと真剣に受け止めるべきではないか。
また、開発コストのドル建て化が進んでいるという山内さんの話は特に印象的だった。これは単純な生産の海外移転よりも根深く、産業の川上まで及ぶ変化だと思う。介入のシグナリング効果への自分の確信も、反対方向の需要の厚みが見えないという指摘を聞いて、少し相対化された気がする。
また、開発コストのドル建て化が進んでいるという山内さんの話は特に印象的だった。これは単純な生産の海外移転よりも根深く、産業の川上まで及ぶ変化だと思う。介入のシグナリング効果への自分の確信も、反対方向の需要の厚みが見えないという指摘を聞いて、少し相対化された気がする。
原子 学 民間シンクタンクの為替市場担当チーフエコノミスト
クラウド利用料の話や穀物の為替予約の話など、現場から出てきた具体例が結局すべて同じところに繋がっている、というのが今日一番の収穫でした。実需のドル需要が受渡日単位で先々まで積み上がっている一方、稼いだ利益は現地で再投資され、円転されない。これは、金利差が縮んでも円が買い戻されない理由として、教科書的な説明よりよほど説得力のある構造だと改めて思いました。
ただ、モローさんが「金利差と成長機会は対立ではなく並行して効く」と言っていた点は、正直少し引っかかっています。供給制約だけで全部を説明しようとするのも危ういのではないか、と。日銀の正常化がすべてを解決するわけではないにせよ、資金の相対的な魅力度には効かないという見方は、言い過ぎだったかもしれません。
ただ、モローさんが「金利差と成長機会は対立ではなく並行して効く」と言っていた点は、正直少し引っかかっています。供給制約だけで全部を説明しようとするのも危ういのではないか、と。日銀の正常化がすべてを解決するわけではないにせよ、資金の相対的な魅力度には効かないという見方は、言い過ぎだったかもしれません。
石沢 勝之 配合飼料を用いる肉牛農家
大企業は増益しとるのに現場の給料が全然噛み合っとらんち聞いて、これはわしらの餌代の話と根っこは同じなんじゃなかろうかち思うたわ。円安で儲かっとる言われる業界でも、時給20円しか上がらん人がおるらしい。わしらも子牛の仕入れと出荷の板挟みで苦しんどるが、結局現場に金が落ちてこん構造は一緒たい。
為替が動くたびに一喜一憂させられて、真面目に働きよる者ほど割ば食う世の中じゃなかて、つくづく感じたばい。
為替が動くたびに一喜一憂させられて、真面目に働きよる者ほど割ば食う世の中じゃなかて、つくづく感じたばい。
御手洗 郁美 来年の家族旅行を計画している会社員
円高に戻ればハワイ旅行も少し楽になるかもと期待していたんですが、話を聞くうちに、それはかなり甘い考えだったなと思うようになりました。介入で多少レートが戻ったとしても、金利差やデジタル赤字が解消されていない以上、旅行費用がすぐに元の水準まで下がるわけではないんですよね。
企業が半年先の調達を予約で積み上げているのと同じで、私が早めにホテルを予約しても、結局は決済日のレートに巻き込まれてしまう。それはもう個人の運やタイミングの問題ではなく、みんなが同じ将来のドル需要を積み上げている構造の中にいるからなんだと腑に落ちた気がします。
円安が戻れば助かる、円高になれば楽になる、というような単純な話ではなく、もっと根っこの深いところで詰まってしまっているんだな、というのが今の実感です。
企業が半年先の調達を予約で積み上げているのと同じで、私が早めにホテルを予約しても、結局は決済日のレートに巻き込まれてしまう。それはもう個人の運やタイミングの問題ではなく、みんなが同じ将来のドル需要を積み上げている構造の中にいるからなんだと腑に落ちた気がします。
円安が戻れば助かる、円高になれば楽になる、というような単純な話ではなく、もっと根っこの深いところで詰まってしまっているんだな、というのが今の実感です。